長編ノンフィクションの企画が決定してから本が出るまで、私の場合は少なくとも3年はかかります。その間に書く手紙は大変な量になります。
まず取材依頼の手紙、次に取材が終わったあとの礼状、新たに疑問が生じた場合の問い合わせ、そして完成した本を送るときの礼状です。1人の相手に対して少なくとも3~4通は書いているでしょうか。評伝のように特定の人物の人生を書く場合は、その方が故人であればご遺族の方々ともっと頻繁に手紙のやりとりをします。手紙を書くことが苦手なら(多くは直筆です)、この仕事はできないでしょう。1日中、手紙ばかり書いている日もあります。
アナログなようですが、仕事の基本は手紙ではないかと私は思います。
どれだけ自分がその仕事を本気で考えているか、どれだけ会いたいと思っているか。
相手の方が手紙を読めばすぐにわかるからです。手紙を書くということは、すべての始まりなのです。
気持ちがどうしても伝わらないことはもちろんあります。長い時間をかけてお願いしても、それでも扉が開かないことはあります。そもそも取材する人間など迷惑な闖入者なのですから。残念ですが、そのときにはご縁がなかったと思って潔くあきらめます。
書くこと、書かれること、双方に大きな覚悟が必要です。真剣勝負なのです。
好き嫌いというより、人生そのもの。
ありません。
読者から心のこもった感想のお手紙をいただいたとき。ひとりに伝わっただけでもこの本を書いてよかったと思いました。それまでの苦労も悩みも一瞬にして吹き飛びました。
家族
詩人
なんでもいいから、ひとつのことをやり遂げる力
優秀な秘書だが、ときどき邪魔をする
意志
指圧に行きたい
『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』[多和田葉子著/岩波書店]
1963年東京生まれ。
関西学院大学法学部法律学科卒業後、会社勤務を経てフリー。科学技術と人間の関係性、教育、スポーツなどを中心に取材。
主著に『絶対音感』(第4回小学館ノンフィクション大賞)、『青いバラ』『いのち 生命科学に言葉あるか』ほか。2007年3月に新刊『星新一 一○○一話をつくった人』(新潮社)を刊行。