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リレーエッセイ Vol.103 伊藤 将雄さん:学ぶこと。諦めずに長く続けること。

「己の立てるところを深く掘れ、そこには必ず泉あらむ」。
これは、明治時代の文芸評論家・思想家の高山樗牛の言葉です。自分にとって働くということを考えるとき、この言葉はとても共鳴するものがあります。目新しいモノやコトに飛びつくのではなく、己の足元をしっかり見つめ、深く掘り進んでいく。長くかかったとしても、諦めずに掘り続けていけば、“その先には必ず清泉が湧く”と思って仕事に取り組んでいます。

学生時代に立ち上げたクチコミ就職サイト『みんなの就職活動日記』(以下、『みん就』)にはじまり、私はこれまでさまざまなかたちで仕事に関わってきました。出版社の編集、楽天でのエンジニア、そして『みん就』の会社化、さらに大学院進学後に開発した『ユーザーインサイト』(※)を主軸とした2度目の起業。仕事人としてはかなりアグレッシブな経歴ですが、それは決して天才的なひらめきで成したのではなく、いつも自分が経験し、考え、勉強してきたことが裏づけてくれた結果です。

大学在学中に自分の就活経験をもとにはじめた『みん就』は、就職後も自分の持ち出しでサーバーを借りて運営を続けました。発端は自身の必要性から作ったサイトでしたが、就活時期が終わると、「みん就のおかげで良い会社に出会えた」という感謝のメールが数百通も届き、これには驚き感動しました。“確実に人の役に立っている”という実感と喜びがサイト継続の源にありました。

現在の会社を2007年に起業したきっかけは、ネット系サービスが増えるなかで差別化を考えたとき、まだ「ビックデータ」という言葉はありませんでしたが、大量のお客さんの反応をデータとして分析したうえで開発していくプロセスが、今後のビジネスの基本になると考えたからです。

いつもアイデアは“自分の欲しいもの”が基点です。そして、「あったらいいな」を手にするためには、魔法のポケットが必要なのではなく、こつこつ地道に学ぶことが大切だと考えています。今、「あったらいいな」をかたちにする力がなくとも、勉強して能力が身につけば、それは魔法でなく自力で生み出すことができると思います。

私にとって働くことは学ぶこと。どんなことでも最初はできなくても、きちんと学び、それを長く続けていくことでできるようになっていきます。ほんの少しやってみる、というのは誰にでもできますが、長く続けていくのは難しい。でも、深くじっくり掘り下げていくことでしか見出せないものがある。私はその先を見たいと思っていますし、それを多くの人に伝えていきたいと考えています。

※独自のアルゴリズムを用いてウェブ上のアクセスログを解析するツール

社員が自由に使えるキッチン

世界中を走れる自転車
「Virtual Cycling」

仕事にまつわる10問アンケート

  1. 今の仕事が好きですか?

    はい、大好きです。

  2. 一生困らないほどのお金が手に入ったら、仕事以外にやりたいことは?

    今やっていることがやりたいことなので、お金に関わらずやっていきたいです。

  3. 仕事で、“鳥肌が立つほど感動した”ことがありますか?
    それはどんなときですか?

    サーバーダウンするほどアクセスが集中したとき。現象としては良くないのですが、開発冥利に尽きます。

  4. 仕事より大切なものは?

    家族。

  5. 子供の頃になりたかった職業は?

    幼少時はおもちゃ屋さん。中学の頃は、まだネットのない時代でしたがパソコンでプログラミングしたりしていたので、そういうことに関わる仕事をしたいと思っていました。

  6. あなたの子供に仕事のためにどのようなことを身につけさせたいですか?
    (※子供をお持ちでない方は、いると仮定してお答え願います)

    「きちんと勉強すること」。私自身、大学や大学院で学んだことが、その後の仕事に役立っているので、きちんと勉強しておくことの大切さを実感しています。

  7. あなたの仕事にとってコンピュータとは?

    人を感動させる、いろいろなものを生みだすことのできる道具。
    小学5年生の時、初めてパソコンを買ってもらってすごく嬉しかったんです。今でもパソコンを使えば何でもできる、という印象がとても強くあります。

  8. 仕事で成功するために、もっとも大切なことは?

    使ってくれる人の気持ちを考え続けること。

  9. 今、1時間だけ自由な時間があったら、何をしたいですか?

    電子工作。電子部品を買ってきて、はんだ付けしてラジオを作ったり、というもの。そこからヒントを得て、“世界中を走ることが出来る自転車”など、電子工作的な取り組みを最近少し行っています。

  10. 最近読んだ本で、仕事に役立ったのは?

    『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』 [クリス・アンダーソン著/ NHK出版]

就活中の学生に向けて

  1. 自分が社会人になったとき、身につけておいて良かったことは?

    経済学。
    経済学だけに限らないが、人間の行動原理について考えるトレーニングをしておくことはビジネスで役立つ。大学時代には「大学でしか学べないこと」をやっておくことが重要。

  2. 「パソコンスキルがあること」は採用に有利になりますか?

    YES。スマホ時代だからこそ、採用する側は学生がパソコンが使えるかどうかを重視する。

  3. 就活中の学生に、一言 アドバイスするとしたら?

    自己分析をしすぎないこと。
    (自己分析に時間をかけて悩むぐらいなら、いろいろな社会人と話す時間を作ったほうがいい)

  4. 「学生時代の起業」について

    賛成、反対のどちらともいえない。
    将来的に起業する場合でも、B to B(企業向けビジネス)の場合は、学生のうちに起業するより、就職して仕事経験があったほうがよい。一方、B to C(一般消費者向けビジネス)やインターネットビジネスの場合は、社会人経験があるかどうかよりも、早くスタートすることが重要なことが多い。

  5. 不安や困難に直面したとき、どのように対処しましたか?

    多くのビジネスには競争がつきものなので、常に不安からは逃げられないし、いつも困難な状況にあるので、そういうものだと思うしかない。

【2013年7月インタビュー】

株式会社ユーザーローカル  代表取締役
伊藤 将雄 (いとう・まさお)

【Profile】

1973年 千葉生まれ。1997年に早稲田大学(政治経済学部経済学科)を卒業後、出版社に入社。2000年に楽天株式会社に入社し、エンジニア・プロデューサーとして携帯サイトやコミュニティサイトの設計・開発を担当。2002年、大学在学中に立ち上げたクチコミ就職サイト『みんなの就職活動日記』を事業化し、会社を設立。就活中の大学生のほとんどが利用する就職サイトに発展させ、その後2004年5月に楽天が子会社化。
2006年に早稲田大学大学院に進み、Web上のユーザー行動解析を研究。研究成果をもとに、早稲田大学内の産学インキュベーションセンター内で『ユーザーインサイト』を製品化して発売。
2007年株式会社ユーザーローカルを設立。

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