最近でこそ、“ビッグデータ”という言葉を頻繁に目にするようになり、ようやく日本でもデータ分析や統計の重要性が広まりつつあります。しかし、国際的に見たとき、日本は統計やデータ活用の有用性に対する意識がまだまだ低く、私自身、30年以上この分野に身を置いていますが、日本の統計教育の後れについて大きな危機感を抱いています。
そもそも、私が統計の分野に進むきっかけとなったのは、ある教授の一言からです。大学(理学部数学科)で卒業は控えていましたが、就活もせず、将来は塾の講師で生計をたてながら好きな勉強を続けることをぼんやりと想像していました。そんな折、お世話になった教授とばったり会い、「今度、理学部と工学部を一緒にした“総合理工学研究科”が新しくできるから、大学院を受けてみては」と勧められ、そこから統計の道に進み、今日に至っています。20代の頃は大勢の人前で話すことは不得手でしたが、現在は長きにわたって多くの学生に教える身。そう考えると、今の仕事は自分1人では選び得なかったもので、思い込みや苦手意識を捨てて、“まず、飛び込んでみることも人生には必要だ”と実感しています。
こうして邁進してきた統計の道ですが、世界では国を挙げて統計教育を進めていますし、中国では“統計師・専門統計師”は国家資格です。それに比べ、日本では統計教育が根づいておらず、近年ようやく中学や高校の授業でExcelを使ってデータ分析の基礎を学ぶ学習指導要領が組まれたところです。その反面、企業や民間団体のマネジメントやリスクを伴う意思決定の場において、客観的なデータ分析の結果は判断材料として日常業務の問題解決や改善に通じる重要な役割を担っているのです。今後、日本が統計などのデータサイエンス分野の人材育成を強化していくには、子供のうちからデータ分析に親しむ環境づくりが必要です。そのため、『統計グラフコンクール』(※)などの機会を教育現場でもっと広く活用してもらうよう働きかけています。私1人の力では限りがありますので、今こそ、産官学のさまざま立場の人たちが協力しあって、日本の統計教育を推し進めていくことが重要だと考えています。
私にとって仕事/働くこととは、考えるまでもない当たり前のこと。生活のためにきちんと働くことは人間としての基本です。ただそれは、“目先のことだけを適当にやる”という姿勢で臨むようなものでは続かない。幸いなことに、私は「統計」というテーマに出会いましたが、仕事は、長く一生つきあっていくものだからこそ、自分が興味を持って続けられるものをやることが大切だと思います。
※統計的な問題解決力を日本の教育に取り入れるために1950年代から開催されている、小学1年生から大人まで参加する60年以上の歴史ある大会。
[統計グラフコンクール]
はい。
好きなことを仕事にさせてもらっているので、研究分野の「統計」を日本に普及するために使いたいです。
まったく仕事と切り離すとしたら、緑に囲まれたところでのんびりしたいですね。
「統計」の分野を開拓された先人(※)の話を聞いたとき。
※総理府統計局長をされたこともある、現在 御年88歳の島村史郎先生。講演で、統計制度の問題点や歴史などについて拝聴する機会があり、一分野を極めた方のお話に感銘を受けました。
子供や家族。そして健康。
小学生の時は小学校の先生に、中学生の時は中学校の先生になりたいと思っていました。
物事を、わかりやすく人に伝えることをしたかった。
近年は、企業から求められるものも変わり、“真面目で勉強ができればよい”ということだけでなく、「創りあげる」「仲間と協同できる」ということも必要とされます。そうした環境に適応できるよう、2人の子供には、「精神的にタフであること」「同年代の仲間ときちんと付きあえること」を望みます。
ないと困るもの。
平常心をもって、継続すること。
締切の迫った原稿をいくつか抱えているので、1つでも終わらせたいです(笑)
同年代だけではなく、年下も年上もいろいろな世代とコミュニケーションをとるスキル。
(社会での仕事や活動は、同じ年代の人とだけするものではないので)
1 パッション
2 ミッション
3 モチベーション
自分が何をすべきか、その理由を知り、情熱をもって取り組む態度が信頼につながるので。
どちらとも言えない。
その年代でしかできないことはほかにもあるので、急ぐ必要はない。学ぶことや経験することの繰り返しが重要。
視野を広げること。「就活」も経験と学びの場。
とりあえず眠る、食べる、買い物をする等で、気分を変え、「失敗は誰にでもある」と言い聞かせて、できる範囲で努力を続ける。
福岡県生まれ。九州大学 理学部数学科卒業後、1986年に理学博士号を取得(九州大学)。関西大学経済学部助教授、東洋大学経済学部教授などを経て、2012年より慶應義塾大学大学院教授(健康マネジメント研究科)。その他、放送大学 客員教授、独立行政法人 統計センター理事も務める。2012年に「第17回 日本統計学会賞」を受賞。