No.135
株式会社 らいおん建築事務所
代表取締役
嶋田 洋平さん
幼い頃から、祖父母が営む商店街の食堂で働く両親を見て育ったので、「働く」という概念のなかに会社員という選択肢はなく、「何かを作る仕事ができたら…」と思っていました。そんなふうに将来のことを漠然と捉えていた高校生のときに『北九州市立美術館』を見て衝撃を受け、「こんなすごい建物を作ってみたい」と思ったのが建築家へ歩みだすきっかけです。大きくて、多くの人が使って、未来まで残っていく。そういう仕事がしたくて上京して建築を学びました。
卒業後に就職した建築事務所はとてもフラットな組織で、スタッフの私もアイデアが出せ、面白ければ採用される環境だったため、自分の提案を具体化させていくためのコミュニケーション力や胆力をずいぶんと鍛えさせてもらいました。『愛・地球博』のトヨタグループ館の設計を含め、9年にわたって大きな仕事をいくつかこなし、自分に子どもができたのを機に独立しました。
創業した2008年頃は、世間で「空き家問題」が表面化した時期で、これからますます日本の人口は減っていくのに、すでに建物は余っている。新築が必要とされる市場は縮小するけど、使われていない建物を再活用すべき市場は拡大の途にある。ならば自分は、「新築ではなく、リノベーションを仕事にしよう」と決めました。これまで培ったスキルやノウハウを活かせることはもとより、何よりも人や社会に必要とされる仕事がしたいという気持ちからの方向転換でした。現在、全国に6,000万戸ある住宅のうち820万戸は空き家(※)という状況ですから。
起業して8年、人間関係をジグソーパズルに例えると、自分の周りを囲むピースの形によって自分というピースの形が決まるということを実感しています。「自分が何者であるかを決めるのは自分ではない」という生物学者の福岡伸一さんの話を聞いたことがありますが、自分の置かれた環境のなかで求められたことに応えていくことでいまの自分がいます。
「モノ作り」から、すでにあるモノを活かして新しい価値を生みだす「コト作り」に軸足をおいてきた結果、さまざまな人と響きあう新たな『場づくり』も拡がってきました。全国を巡ってリノベーションスクールを開催して知識の体系化に取り組み、仲間たちとできることを考え行動していくうちに、少しずつですが社会からも評価されつつあります。いまある資源を活用して、新たな活力を創っていく。そのための架け橋としてリノベーションという手法がある。こうした「再生」のうねりは世の中のあたり前になってほしいですし、地域と人々が自立して一丸となって自分たちの街を盛り立てていく−−、そんな健全な社会になっていくべきだと思っています。
そのためにも、まずはみんなが楽しむことが大切で、「仕事は楽しく」、これにつきます。いろいろな考えをもった多くの人たちと築きあげていくのが仕事だからこそ、楽しみながらポジティブにやっていく。そこから、子供たちが暮らしやすい未来につながっていると信じています。
※2013年「住宅・土地統計調査(総務省統計局)より
『ローマ人の物語』[塩野 七生著 / 新潮社]
“現代起きている問題のほとんどはローマ帝国で起きていた”と言えると思えました。組織のなかで人を育てる仕組みもあり、実践で学ぶことの大切さも認識できるなど、学ぶところが多かったです。
株式会社 らいおん建築事務所
代表取締役
嶋田 洋平(しまだ・ようへい)さん
1976年北九州市生まれ。2001年 東京理科大学 理工学研究科 建築学専攻修士課程修了後、建築設計事務所「みかんぐみ」入社。同社でのチーフを経て、2008年に株式会社らいおん建築事務所(東京都豊島区)を創業。2012年に株式会社北九州家守舎 設立、2013年に株式会社リノベリング、株式会社都電家守舎を設立。 北九州(小倉)と東京(雑司が谷)を行き来しながら「リノベーションまちづくり」を実践。
小倉におけるリノベーションスクールを核とする実践によって、まちづくり法人国土交通大臣表彰と日本建築学会教育賞を受賞。東京理科大学非常勤講師(2014年)、東洋大学講師(2015年)。
【2016年2月インタビュー】
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