No.182
学習支援塾ビーンズ
塾長
塚﨑 康弘さん
社会と自分のつながりが、一度断たれたからこそ分かる。さまざまな環境の中で孤立してしまう怖さや苦しさ。同じように学校で孤立してしまった子どもたちに居場所を作るため、一念発起して開校したのが「学習支援塾ビーンズ」です。
■ニートから起業を決意するまで
大学卒業後、一般企業で営業として飛び回っていましたが、身体を壊して大分の実家に帰ることに。ほぼ2年間ニートとして過ごし、社会とのつながりも途絶えました。しかし、その時間が自分のやりたいことをとことん考えるきっかけにもなりました。親は公務員だったので、ニートの私に「今ならまだ間に合う!」と公務員を勧めてきましたが、人に教えることが好きだった私はフリーランスで家庭教師を始めました。口コミで徐々に生徒数も増えていき、手ごたえを感じ始めた頃、学校などで居場所のない子どもたちに出会い、彼らのために何かできることがあるはずだと考えるようになりました。しかし、1人の力では大したことはできません。「仲間を集め、子どもたちの居場所となる塾をつくろう。」その想いを胸に、再度上京することを決意しました。
■学習支援塾ビーンズ創業まで
想いはあれど、創業については何も分からない状態だったので、「新宿区立高田馬場創業支援センター」で創業に向けての支援を受けながら、徐々に自分がつくりたい塾のカタチを具体化していきました。センターからの勧めで東京都が開催するビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」に挑戦して、つくりたい塾のカタチをさらに自分の中へ落とし込み、2015年8月に不登校や勉強嫌いな生徒のための「学習支援塾ビーンズ」を開塾しました。ビーンズは人間関係でのつまずき、詰め込み教育のひずみで勉強嫌いになってしまった子どもが、心をケアしながら復学や進学できるように“学び治し”をする塾です。在籍生徒数は小学校から大学までで90名、先生は10名で基本マンツーマンの授業を行っています。
■子どもたちにとって社会へ出ることは “すりガラス越し”の闇の中へ向かうこと
ビーンズの生徒で一番多いのが中学3年生で、保護者様からは「子どもに自信をもたせて、一緒に進路を考えてあげてほしい」という依頼を多く受けています。自分が何をやりたいのか、どんな学校を選んだらいいのか、子どもたちは情報を収集する力をあまり持っていないために、決めるのを躊躇しています。さらにビーンズにくる子どもたちの多くは社会に出ることは“すりガラス越しの闇”の中へ行くことだと考えています。闇は闇でも、“すりガラス越し“であることがポイントで「ネットとメディアの情報を見る限り、どうも社会は真っ暗っぽい」と感じている子どもが多いのです。もちろん、私たち大人だって社会に明るい見通しばかり持っているわけではなく、社会の暗い課題を知る瞬間も増えてきます。しかし、仕事の楽しさを感じられる瞬間もあるし、社会課題を明るく照らす人々の存在(例えば、今までこのインタビューを受けてきた方々など)も知っています。「社会を知る」という点で、大人に比べると子どもたちは圧倒的に不利ですし、ヤル気が起こりえない構造の真っ只中にいると考えています。
ビーンズでは、そんな子どもたちへ社会にはどんな仕事があって、どんな面白さがあるのかを伝えて、そのためにはどんな学校に行くといいのか、1人ひとりに沿った未来について一緒に考え学んでいます。
■「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する。」が仕事のモットー
私が働くうえで意識していることに「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する。」という、稲盛和夫氏の言葉があります。社会人になりたての頃、初代内閣安全保障室長であった佐々淳行先生と仕事上のご縁があり、教えていただきました。佐々先生曰く、この格言とは逆に「まぁ、なんとかなるだろう」と準備を怠り、いざなにかあると「もうダメだ」と立ちすくんでしまう人が多いとのことでした。経営者として、「悲観的に準備」しつくすことはできなくとも、少なくとも「楽観的に構想」し、なにか不測の事態がおきても「楽観的に実行する」ことを実践したいなと考えています。
■仕事のやりがいと、これからの目標
創業当初は生徒数の少なかったビーンズも、今では毎日子どもたちで賑わっています。卒業生も増え、彼らから感謝の手紙をもらうこともあります。不安を抱えていたり、体調の問題で通学できなかった子が、行きたい学校へ進学して、活き活きと学校生活を楽しんでいるという連絡などをもらうと、「ビーンズを創業してよかったなぁ」と思います。今後は、講師・スタッフが、子どもたちへより多彩な進路の選択肢を提案できるよう、四年制大学卒業以外の進路(専門学校など各種学校や就労)について知り、実感をもって子どもたちへ伝えられるようになることが大切だと思います。
私にとって、働くことは社会や人とつながる術です。働いているからこそ、社会を知る手がかりや人とのご縁を得ることができます。これから社会に出ていく子どもたちにも、社会や人とのつながりを大事に、未来を切り開いていってもらいたいです。私はそのための手伝いを全力でしていきたいと考えています。
『項羽と劉邦(上)』[司馬遼太郎 著 /新潮社]
天才で若きカリスマである項羽に対し、特別強くなく性格もクセがある(中年の)劉邦が立ち向かっていく物語です。性格にクセはありますが、自分と違う意見をもつ人間も排除せず、自分とはタイプの違う能力の持ち主たちをまとめ、何度負けても挫けずに項羽に立ち向かっていく劉邦の姿に惹かれます。
『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』[ 戸部良一、寺本義也、鎌田伸一 他 著 / 中央公論新社]
組織が成長し、イノベーションを起こすには多様で異なる意見同士の摩擦が必要だと、戦史を通して学ぶことができる本です。
チームの中で意見の摩擦が起きるのは本当に面倒ですが、同時に成長できるチャンスだと教えられ、意見の摩擦をポジティブに捉えられるようになりました。
学習支援塾ビーンズ 塾長 / アップシードビーンズ株式会社
代表
塚﨑 康弘(つかざき やすひろ)さん
1985年8月10日生まれ、大分県中津市出身。早稲田大学人間科学部を卒業後、広告代理店にて勤務。退職後、2年のニート期間を経て家庭教師を始める。不登校・ひきこもりなで悩む子どもが増えていることや、10年前に自分自身が受験生だったころから変わらない「詰め込み型の勉強指導を続けるだけの教育」に危機感を覚え、これらの問題を解決するべく起業を決意。2015年8月に学習支援塾ビーンズを開塾し、不登校・発達の特性など様々な背景をもつ小学校高学年~高校生を生徒として受け入れている。子どもたちに共通する「自分に自信が持てず、進路を想像できない」という課題を解決し、「心のケアと社会性・主体性の育成」をするため、個別指導と集団授業、居場所支援をミックスさせた独自の教室づくりを進めている。
【2020年1月インタビュー】
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