高校を辞めてカナダのUWC(※)への留学を決めた時。これが私の人生の大きな分岐点となりました。大学受験のために苦手な科目を克服するより、自分の得意な分野をもっと自由に伸ばしていきたい、というのが留学の理由でした。幸い、私は奨学金で留学が叶いましたが、それがどれほど恵まれていることかを本当の意味で思い知ったのは、親友のメキシコ人の故郷を訪ねた時のこと。彼女の家は貧しく、彼女以外の兄弟は奨学金を貰えなかったために大学進学を諦め、地元で修理工の仕事などに就いていました。どんなに優秀でも、機会に恵まれなければ生活は向上しない。目の当たりにした現状に、発展途上国の教育に貢献したい、という想いが私のなかに生まれました。
その後、大学卒業後のモルガンスタンレーや国際協力銀行勤務などを経て、自身の心に芽生えた想いに引き寄せられるように、ユニセフでフィリピンのストリートチルドレンの教育に携わりました。フィリピンの初等教育は無料ですが、貧困層の家では数十円を稼ぐために親が子供を学校に行かせていない現実があります。しかし学ぶことができなければ、貧困を抜け出すチャンスは与えられない。だから、そんな子供たちのために小学校の夜間教室を開きました。その一方で、人口は増えていくのに識字率はまったく上がらず、富裕層との格差が埋まることのない日常を見て、貧困層教育ももちろん大事だが、同時に上の層の意識を変えなければ問題は解決しない、と強く実感するに至りました。社会に影響力を持てるリーダーの育成に取り組んでみたい、と思いはじめたのはこの頃です。そして、その想いが「学校を作りたい」と考えていた方との出会いを生み、「時代を担うリーダーを育成するためのインターナショナルスクールを作る」という、私にとって“運命の仕事”を手繰り寄せることになったんです。
私たちが目指す学校づくりの核となるのは、“多様性”。国籍、宗教、社会的バックグラウンド、貧富の差などのすべてを超えて物事を考え進めていける人こそが本当に世界で活躍できる人だと思っています。そのような多様性に対する寛容力があり、それをきちんと理解できる人を育てたい、という想いを結実すべく邁進する日々です。学校づくりは、初めてのことだらけで毎日が体当たりです。自然の豊かな軽井沢での開校を決めたものの、2万坪の土地探しに3年近くかかり悪戦苦闘…。それでも、困った時には必ず助けの手が差し伸べられ今日に至っています。
私一人だけでは、ここまでくることができませんでした。私の“想い”を軸に、それに共感してくださる人の輪がどんどん広がっていき、同志たちと一緒にここまでたどりつくことができました。そして、開校してからが本当の意味でのスタートになります。50年後も、私がいなくなってからも、今ここにある“想い”がぶれることなく実践できる仕組みづくりをしていかなければ、と思っています。
※ UWC:ユナイテッド・ワールド・カレッジ。
世界各国から選抜された高校生を受け入れ、教育を通じて国際感覚豊かな人材を養成することを目的とする国際的な民間教育機関。
はい。ようやく巡りあえた、一生をかけて取り組みたい仕事です。
私自身この事業でお金を貰っていないのですが、一生困らないほどのお金を得たらこの事業に使いたいですね。
2011年のサマースクールの最終日に、生徒たちの発表を聞いたときです。「何を学び、何に感謝し、これから何を目標に生きていきたいか」を自分の言葉で話してもらったのですが、「国境を越えた価値観を得た」など、私たちの学んでほしいことや目指している理想にぴったりと重なっていて、ものすごく嬉しかったです。
夫と息子です。
海外での仕事が多かった父の影響もあってか、国際的に活躍できる仕事に興味をもっていました。
能動的に何かをつかみ取っていく力。自分で感じとって判断する力。
そのためには、できるだけ多くの価値観に触れることだと思います。
仕事をするうえでなくてはならないもの。タクシー運転手にとっての「車」のような存在。
突破力。
フランスの哲学者アランの『悲観は気分によるものであり、楽観は意志によるものである』という言葉のように、「必ずできる!」という意志を貫くことが大切だと思います。
息子と遊びたいですね。
経団連からの全額奨学金をうけて、カナダの全寮制インターナショナルスクールに留学した経験を持つ。その原体験により、大学では開発経済を学び、前職では国連児童基金(UNICEF)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在、ストリートチルドレンの非公式教育に携わる。その経験から、次世代のリーダー教育の重要性を強く感じ、2013年9月に日本に初めての全寮制インターナショナルスクールを開校すべく準備中。アジアを中心に、全世界から生徒を募集して次世代をリードする子供たちの育成を標榜している。1993年国際バカロレアディプロマ取得、1998年東京大学経済学部卒、2005年スタンフォード大学国際教育政策学修士。