2020.8.13
発売と同時に10万いいねがつき、その後アマゾンのビジネス書のトップになるなど、大きな反響を呼んでいる『スペースキーで見た目を整えるのはやめなさい ~8割の社会人が見落とす資料作成のキホン』(刊行/技術評論社)。著者は、マンツーマン体制の『フォーティネット パソコンスクール』(以下、スクール)を立ち上げ、仕事でパソコンを使うビジネスパーソンの悩みや疑問に20年以上向きあってきた講師の四禮静子さんだ。
長年、MOSの資格試験も実施いただく同スクールの著者に、大ヒット作が生みだされた経緯をはじめ、仕事をするうえで必要なパソコンスキルとそのスキルを自身の真の力にするための身につけ方を伺った。
ゲスト
有限会社フォーティ 取締役
四禮 静子さん
インタビュアー
株式会社 オデッセイ コミュニケーションズ 製品開発 マネージャー:横田 由紀
場所|オデッセイ コミュニケーションズ
書籍出版については、4年前に2冊の本を出した出版社の方から、「前作の改訂版として、ワードの機能を深堀りしたビジネス書を書きませんか」とご依頼をいただき、昨年の6月頃から、編集担当の方と打合せを重ねていきました。今回は、新しい担当者の方だったので、本の構成案以外にも、私どものスクールに来ている方とか企業研修先の受講生の方たちがワードやエクセルの便利な機能を知らなくて、スペースキーを何度もたたいて見た目を整えている人が思った以上に多い。それでも、どうにか仕事ができているから、新たなやり方を覚えなくてもよいと思っている人も多く、便利さを知っている私からすると、「基本的なことをきちんと使えるようにしたら、みんなもっと仕事の効率が上がるように思うんですよね」などといった、日頃、私が感じていることも含めたいろいろな話しをしました。
すると、機能を深堀りするよりも、実際にいまの現場で起きていて、四禮さんが疑問に感じていることを書いたビジネス書のほうがいいかもしれない、ということになって、“Officeアプリを使って仕事をする場合、最低限、これぐらいのことができないと無駄な工程や時間が多くなる”ということが提示できる本に仕上がると面白いね、というふうに最初の趣旨とは変わっていっちゃったんです(笑)。そんなやりとりのなかで、このタイトルも編集担当の方からいくつかご提案いただいたもののなかから決まっていきました。
一般的に、新卒で社会人になると就職した会社のやり方で仕事を覚えていきますよね。先輩から教わりながら。仮に、その業務を同じ人が何年も担当している場合、教えられたひとつの方法で進めていけば業務は完了しますので、大きな支障がなければ、便利なやり方を新たに覚えてまで、いまやっているやり方を変える人は少ないように思います。ビジネスマンの方々は、同じような業務を他社がどのような作業方法で効率的に進めているのかを見る機会は滅多にないでしょうし、何かのきっかけがないとご自身はこれでいいと思ってしまいますよね。それに比べ、私はPCインストラクターという職業柄、さまざまな業種の方のさまざまな使い方を目にする機会が多く、より効率的な方法はないかと考えるわけです。
まさにタイトルとデザインにインパクトがあったことだと感じています。本に書かれている手順を読んで、その通りにやれば誰でもできる書き方をしてあるのがハウツー本かと思いますが、今回の書籍は、資料作成で大切なのは「美しさ、スピード、共有性」であること、そして、そのために必要な機能が、なぜ必要なのかという部分に重きをおいた書き方にしました。機能説明本とは異なり、“資料作成における、押さえておきたいポイント”が軸となるため、その点がみなさまに共感いただけたのでないかと思います。
というのも、意味や理屈を理解しないでただ単に記憶したことというのは忘れがちですが、きちんと理解したことって忘れないんですよね。これはテスト勉強と同じで、暗記しておけば100点はとれるかもしれないけど、日にちが経つと忘れて使えない・・・。という勉強の仕方になってしまう。ハウツー本には、「なぜ?」の部分は書かれていませんが、私は、この本を仕事でワードやエクセルを使っている方が読み進めていくなかで、「あぁ、そういうことなのか。だからこのやり方がこの仕事には適しているんだな」ということを理解していただけるような内容に仕立てたかったんです。
“ビジネスシーンでの資料作成に必要な機能”ということに絞って選択しました。それも、一般的によく使われるペラ1枚のビジネス文書や、エクセルで言うなら、すべての表のキホンになるリスト形式の表の作成に必要な機能などです。
スクールをご利用いただく受講生や企業研修に参加してくださるみなさまは、何らかの“疑問”や“悩み”を解決/解消したくてお見えになる方ばかりです。日々の授業のなかで、いろいろな方からお聞きするさまざまな“疑問”が、私のなかに蓄積されて、そこからみなさまが求める機能をご紹介したかたちになります。
私は、何かひとつのことを身につけるためには、自分の頭で考えて“疑問”をもって取り組むことが、パソコンに限らず、すべてのスキルアップの基本になると思っています。
手順通りにやって、できればそれで終わり、ということでなく、「こういう場合はどうかな?」「ああいう場合はどうかな?」「じゃあ、こうやったらどうなる?」と、いろいろなケースを自分で想定して考えられる力を養うことで、理解度も進み、物事の本質をとらえる力もつくと思います。
例えば、エクセルの関数の勉強で言うと、個々の関数の使い方を知っていて、「それらを組み合わせたらどうなるか?」ということを考えだすと無限に広がっていきますよね。「こういうことがしたい」という目的に対して、「こういうことはできないのか?」という疑問をもつことからはじめれば、いくつもの関数を組み合わせて、できるかできないかを自分でひも解いていく楽しさみたいなものも出てきます。そこまでいけば、使えるスキルが本当に身についたということが言えるんだと思います。
そうですね。とくに、個人の方の場合は、自分のお金とお休みを使って、仕事のスキルアップのための勉強にいらしているわけですから、努力をされている方々だと思いますし、本当に偉いなぁって思うんです。その一方で、会社でエクセルやワードを使っていてわからないことがあると、パソコンに長けている方に「ここができない、教えて!」って聞いてくる方というのはどこの会社にもいると思いますが、その方が教えている時間というのは、本来の自分の仕事ができないわけですから、生産性が落ちますよね。エクセルやワードができる人というのは、陰で努力しているわけで、その人たちは努力していない人に、自分の努力を分け与えているということになるんだと思うんですよ。そうではなくて、みんながみんな、最低レベルのパソコンのスキルをもっていれば、組織全体の生産性も上がりますし、組織全体の足並みを揃えるためのスキルの底上げができることになります。これは会社にとって、とても重要なことだと思います。
山ほどありますが・・・(笑)。エクセルの例で言うと、講義で「日付けを入れてください」と言ったら、ワープロのように、「7」「月」「13」「日」というように手で打って入力するとか、その他、SUM関数のなかに掛け算を入れた数式を使っているとか、思いもつかないような使い方を目にしたときは驚きました(笑)。その他、エクセルの連続データを選ぶ、というような、日々の業務でよく使う操作も、「ショートカットキー」を使えば簡単に手早くできますが、使っていない方も意外に多い。それを講義で伝えてやり方をお見せすると、みなさん「目からウロコ!」って感嘆されます。ただ、それって難しいことでもなんでもなく、単純に便利なやり方を知っているか知らないかだけで、「私でなくても、誰でも知っているんですよ」って、お話しするんですけどね(笑)。
周りの人に頼ることなく会社で仕事を進めていくためには、この本に書いてあるパソコンスキルが最低ラインだと思います。例えば、ワードで言うと、数ある機能のなかから必要なものだけを選び、限られた時間のなかで仕上げられるレベル。目安としては「ビジネス文書を、15分以内に自分で編集できる」というのが最低レベルになります。エクセルは、基本的な操作ができたうえで、関数を使って書式を整えることができるレベル。もちろん、「何のために、その表を作らないといけないのか?」ということをきちんと理解したうえで表を作るということが基本になるので、まずは、そこを理解することが最低レベルですね。
私は、この最低レベルが基準になれば、おのずと業務効率が変わっていくと思っています。会社に入って、新入社員というスタートラインに立ったときに差があると、どうしても人に教えてもらったり、仕事が滞りがちになったりしてしまいます。そこで、“新入社員は、この本に書いてある内容ができることを必須にする!”となれば、パソコンで行う業務効率アップが図れ、ビジネス全体の生産性アップにつながっていくと思うんですよ。もちろん、それ以上のスキルは個人の努力という部分もあると思いますし、基準をクリアしていれば、あとは、個々の業務内容や仕事のやり方に併せてスキルを身につけていけばいいわけですから。
冒頭でお話したように、企業のなかでは、特定のやり方で業務を繰り返していくことが多いためか、「ふだん使っている以外の機能は使わない」という方が、結構いらっしゃいます。使う機会がなければ、知る機会もなくて、あえて知るための勉強も必要ない、ということで日々は過ぎていきます。でも知ってみると、自分がずっとやってきたやり方が非効率だったということに気づくはずです。
MOSというのは、Officeアプリの試験なので各アプリが備えているいろいろな機能を浅く広く問われます。ということから、MOSの勉強をすることによって、「エクセルに、そんな機能があったんだ」ということを知ることができますし、知ってさえいれば、“いままでやっていた仕事が、もう少し効率化できるんじゃないかな?!”という発想をもつことにもつながっていくと思うんですよね。
Officeアプリは、仕事で使うツールとして開発されているので、日常業務に活かすための「便利で誰もが使いやすい機能」がとてもよく考えられていると思います。それを使わないのはもったいないですし、自分の仕事にどの機能が活かせ、業務を効率化できるのかということを常に考えることが大切です。アプリケーションを使いこなすためのスキルを身につける手法のひとつとして、MOSの勉強を位置づけていくとよいと思います。そしてその結果として、目に見えないスキルを第三者に示すために資格も取得しておく、という感じでしょうか。
MOSは、そもそもが実践力を測る資格試験なので、勉強の仕方も、覚えた機能を自分の仕事にあてはめ、「こう活かせないか」「ああすればどうか」といった疑問をもちながら、日常業務に活かしていくことを考えるやり方で進めていくと、生きたスキルとして個人にとっても組織にとっても機能していくと思います。ただ、「合格認定証」を手にするためだけの勉強法では、“MOSの試験合格者という証明書をもった人”になってしまいます。それは車に例えるならペーパードライバーです。せっかく取得するのなら、合格後に実務に活かせる学習方法をお勧めします。
私たちも、この本の魅力とともに、MOSの役割を広く世の中に伝えて、スペースキーに頼ることなく見た目の良い文書、あるいは資料を作成できるビジネスパーソンを増やしていきたいです。
本日はお忙しいなか、貴重なお話しをありがとうございました。
(インタビュー:2020年7月13日)