2020.10.26
データサイエンスを事業コンセプトに、個人向けのデータサイエンティスト養成講座や企業研修など、ビッグデータ、人工知能、機械学習をはじめとするデータサイエンスに関わる教育や研修事業を行っている株式会社データミックス 代表取締役 堅田 洋資さんに、起業の経緯やデータ分析の将来についてお聞きしました。
ゲスト
株式会社データミックス
代表取締役社長 堅田 洋資さん
インタビュアー
株式会社 オデッセイ コミュニケーションズ 横溝 萩乃
会社を設立した3年前は、一般的なビジネスパーソンに必要なスキル=“データ分析力”という状況はほぼ皆無で、社員研修のメニューとしてデータ分析を提案しても見向きもされませんでした。もともとデータサイエンスを事業コンセプトにしたきっかけは、自分が思い描いたデータ分析力を活かした仕事が日本に少なかったことに起因しています。
いまから7年ほど前の31歳で、アメリカに留学してデータサイエンスの修士号をとったのですが、そのときに「アメリカと日本は、だいぶ違うな」と思いました。当時のアメリカの状況は、わりといろいろな会社のなかにデータ分析チームに類するものがあって、多種多様な企業で求人募集がありました。私も、インターンとしてカタログ販売を行うサンフランシスコの地元企業に勤めましたが、社内には分析チームがあり、そこには5名ほどの専任スタッフが配置されていました。当時は、マーケティングや営業の各々の部署内でデータ分析はやっていませんでしたが、そうした分析結果を活用しようとする意識はすごく感じられましたし、データを活用していくことが会社の方針でした。一方、修士をとって帰国した2014年当時、日本ではデータ分析に関わる就職先はほとんどありませんでした。
帰国後に、データ分析のコンサルタントとして働く機会を得ましたが、外注として仕事を受けていてもなかなか成果に結びつかない葛藤があり、「お客さんのビジネスが良くなっている感じが実感できない」という問題意識がありました。プレゼンして「面白い」「なるほどね」とは言ってもらえても、売上UPやコストダウンなどの成果が私の眼からは見えなかったんです。
そうした「徒労感を感じていた」時期に、外から関わるより、データ分析のできる人をクライアントのなかに育てて、その人たちと話しあったほうが成果というゴール達成に早そうだ、と思ったのが“人の教育”ということに着目して起業したきっかけでした。
対象は、ビジネス経験のある社会人で、約6カ月のプログラム「データサイエンティスト育成コース」がメインの講座です。ただ、データサイエンティストになりたいと思った人が、いきなり「6カ月間の70万円の育成コース講座を受けよう!」となるケースはさほど多くないですし、実際に仕事をしている人たちなので、Pythonを学びたい人、プログラミングは得意だけど統計学は苦手な人など、一人ひとり状況が異なります。そこで、メインの講座だけではなく、マーケティング分析、Pythonや統計学など、短期の講座も用意しています。
データ分析スキルといっても求められるスキルは多く、「いかにビジネス課題の解決を主導できるか」を軸に、自らの仕事/キャリアに応じたプログラミングの技術、データの正しい理解、データの活用を学ぶ必要があります。
また、日々改良され進化していくデータサイエンスの分野では、「学び」を共感・継続していくことも大切です。当スクールは、受講後のつながりがあるのも特徴で、月に1度、有志が集まって難しい論文を読む『ゼミ』と呼ばれている集団があったり、「いま、こういうことに困っているんだけど」と相談しあったりするなど、講座が終わっても卒業生同士のコミュニケーションが続いています。
当校で学んだ受講生が、つながり/切磋琢磨して/高めあっていく良質な人材の集まりとして世間に浸透していけば、学びを終えたのちの評価にもつながり、企業側が求める人材との乖離も少なくなると考えています。
一時期よりはだいぶ良くなっていますが、企業からは「スーパーマンみたいな人が欲しい」という声が多く、求められるスキルや人物像はハイスペックすぎる印象が強いです。Pythonが書け、別のプログラミング言語としてR(アール)もでき、かつ問題解決能力も高い。企業が求める希望要素を「全部そろえました!」といった、そんな人はいまの日本にめったにはいないです。
正直、いまの日本の求人は玉石混合で、一部の企業を除くと、「データサイエンティストがこういうことをする人だ」ということを明確にわかっていません。現状は、企業の求人レベルと現実の人材の間に少しギャップがあると感じています。
一方、当スクールに通う方のうち、「データサイエンティストになりたい」というモチベーションで来校される方は、そのほとんどが未経験の人たちです。
なので、未経験者が最終的にやりたい仕事や希望職に就くための会社探しやキャリア形成のための支援が必要だと考えています。というのも、講座終了後に「在籍中の会社でデータ分析できるチャンスがある」という人は別として、基本的には未経験の人は採用してもらえないからです。データサイエンティストとして未経験から転職することのハードルが高すぎるという現状は、当校の教育のなかでデータサイエンティスト本来の泥臭い部分を見せられていないところにも原因があると考えています。カリキュラムの改善を継続し続けることが重要だと考えています。
その他、実はデータサイエンティストを目指す以外に、これまでのキャリアとデータサイエンスを掛け算することで新しいキャリアを切り拓こうという方も数多くいます。例えば、マーケティングの経験者がデータサイエンティスト育成コースで学んで、テック系の企業にデジタルマーケターとして転職するとか、営業のキャリアにデータ分析力をプラスして、ベンチャー企業のセールスディレクターとして働くなどといったケースです。
このようなパターンもあることから、当社では、相談者(受講者)に「あなたはいままでこういう業界にいたから、そこでの経験とデータ分析を掛けあわせて、こういう会社に行くと面白いのでは」といったアドバイスをしています。これまでのキャリアとデータサイエンスの掛け算を考える方の多くは、データを深く追究したいというよりも、データ分析は手段でありビジネスの課題を解決することにパッションがある人です。このような方は、給与アップや職位アップで転職する方が多いです。
データ分析系の資格には、『統計検定』や『G検定』がありますが、「これらの資格は、専門的で難しすぎる」という声がありました。その一方で、「PythonもRも機械学習も統計も、基本となるベースを幅広く抑えていると便利だね」という声も受講生との雑談で出てきました。こうした声を踏まえ、「講座で勉強したことの証」としてオーソライズされている資格試験を開発していくことを決めました。開発にあたっては、企業でデータサイエンティストの実務家として働いている同志10人あまりを集めてプロジェクト化しました。そのプロジェクトで協議し、「何がわかっていると、その人を採用したくなるか」という軸で整理したのが、「データ分析実務スキル検定」、CBASという資格試験です。
実際の試験は、企業人が採用基準で作っていったため、少し難しくなってしまったと思います。ですが、結果的に良かったこととしては、いろいろな人に受けてもらった結果、開発側の意図と合否結果が思った以上に符合していて、受かるべき人だけが受かっている。そして、「この人はどうかな?」と思った人は合格していないので、試験としての識別力はあると思います。
そのせいか、法人研修で「研修の仕上げとして、この資格試験を受けましょう」という提案をすると、概ね多くの企業に好評です。かつての法人研修では、ただ座っていただけで、大した知識もスキルも身につかなかった人も少なからずいたと思いますが、CBASを研修に組み込んだことで、そのような人がかなり減り、研修に参加した社員はみんな、超勉強するようになりました。データサイエンスを実務レベルで関与しようと思うと、統計学、機械学習、Python、R、個人情報保護や契約手続きなど幅広く学ぶ必要があるのですが、CBASは、どの部分のスキルがあるのか/足りないのかといった濃淡が一目瞭然になるので、採用側にとって便利です。また、テストの結果を人事部が見ているということもあるとは思いますが、最後に、自分の理解度が浮き彫りになるテストがあることが、受講者にとっても勉強するモチベーションになっていて、これは資格試験の効能というかパワーになっていると思います。
最近のアメリカの求人を見ていると、「プロダクトアナリスト」「カスタマーアナリスト」というように、だんだんと職域が細分化されてきています。そうなるのは至極当然で、普通のビジネスマンにデータ分析スキルの素養があることがあたりまえになってくると、特定分野のデータ分析に強い人というのが登場しはじめてくるのではないかと思います。
データ分析スキルの素養があたりまえの時代には、Excelを使う人をエクセラ―とは呼ばないように、将来的には、今のように「データサイエンティスト」とは呼ばれなくなるでしょう。
この先、すごく使いやすい分析ツールが増えていって分析ツールの取得コストが下がっていくと、結果的に、いま「PythonやRが書けることだけで価値がある」と考えている人材は淘汰されていくでしょうし、より深く分析できる、入り込んで知識のある人が脚光を浴びてくるはずです。
その一方で、企業では現場への“権限委譲”が必要です。データ活用するということは、現場でデータを分析して「こうだろう」というアイデアを出し、そのアイデアを実際に実行して、結果をだすというサイクルとなります。分析の会話は通じあえるけど結果が出てこないかと、分析はするけど実行は別にするとか、そういうことではなく、現場に分析から実行までの権限委譲する、データを使って問題を解決することを良しとする、このサイクルを認める企業の姿勢が求められてきます。
私は、この仕事のことを初めて知った18歳のときから魅せられ、今日に至っていますが、データ分析という職域に対する日本の認識もようやく変わってきつつあります。
当社のクライアントでも、分析の難しいところは専門のチームが行いますが、基本的なことは専門でない一般社員がMicrosoftのツールを使って分析をするなど、現場のことは現場で解決するようにということで取り組みはじめている会社も出てきました。今後は、そういったスタイルが広く普及されていくように思います。
データ分析をビジネスに取り込む日本とアメリカの活用状況の違いをはじめ、日本における、データサイエンティストとしての転職状況やデータ分析という職域に対する企業の認識/状況の変化などについてお聞きできました。 本日はお忙しいなか、貴重なお話しをありがとうございました。
(インタビュー実施日:2020年9月7日)
※現在は「株式会社ピープルドット」に社名変更