2023.11.14
デジタルテクノロジーを活用し、地域の未来を創造する『デジタル先進企業』を目指す肥後銀行。熊本県を地盤とした地方銀行である同行が取り組むDX(デジタルトランスフォーメーション)について、同行が取り組む資格試験「ビジネス統計スペシャリスト」を主催するオデッセイコミュニケーションズ代表取締役社長 出張勝也が同行の行内放送局「うるおい未来スタジオ」にて2人の行員、田﨑秀成さんと平山みずほさんにインタビューしました。動画もあわせてご覧ください。
ゲスト
株式会社肥後銀行
経営企画部デジタル戦略室 田﨑秀成さん
2008年の入行後、7年間の支店勤務、2年間の外部出向を経て、2017年からは、本部にてデジタルサービス関連の業務に従事。2019年より経営企画部デジタル戦略室に所属。
人事部人材開発グループ 平山みずほさん
2015年入行。支店勤務を経て、2016年夏から人事部に所属。行員の研修・教育、資格試験の取得や通信講座の受講などの支援に携わる。
(文章中敬称略)
インタビュアー
株式会社オデッセイコミュニケーションズ代表取締役社長
出張勝也
出張 まず、簡単に肥後銀行さんが取り組まれているDXの概要を教えてもらえますか?
田﨑 はい。私たちは金融持株会社でもある株式会社九州フィナンシャルグループ全体でパーパス(企業の存在意義)を掲げています。具体的には「お客様や地域の皆様とともに、お客様の資産や事業、地域の産業や自然・文化を育て、守り、引き継ぐことで、地域の未来を創造していく為に存在しています」です。
当行ではそのパーパスを体現するため、デジタルテクノロジーを活用し、地域社会を持続的に発展させていきたいと考えています。世の中の変化に対応していくため、銀行も変わっていく必要があり、デジタルテクノロジーを活用して過去にできなかったことに取り組む変革自体をDXと考えています。
出張 ありがとうございます。田﨑さんの話を伺うとDX自体が目的ではなく、DXを通して銀行の存在意義を実現することが主眼であり、本当の目的なのだと感じました。
もう少し具体的に、どのような取り組みをされているのか聞かせてもらえますか?
田﨑 おっしゃる通り、DXは目的ではなく、あくまで経営の手段だと認識しています。会社によって目指すDXは異なり、私たちはまず「肥後銀行にとってのDXは何なのか?」を定義することからスタートしました。形として「肥後銀行DX計画」にまとめられていますが、内容を簡単に説明させていただきます。
肥後銀行DX計画はこうなりたいという「経営ビジョン」、そのための「デジタル戦略」、人材やシステムをどう変えていくかという「DXに向けた環境整備」の大きく3つに分かれます。
経営ビジョンに関しては、デジタルテクノロジーを活用する能力が高い『デジタル先進企業』を目指すと掲げていますが、背景には競争環境が以前と大きく変わってきているという危機感があります。日本では現時点でサービス展開されていませんが、2023年4月、米国アップル社が預金サービスを開始するなど、これまで想定していなかった企業とも競争していかなければなりません。銀行もデジタルを活用する力が必要となってきているのです。
デジタル戦略には、「新たな体験・サービスの提供」「プロセス改革による生産性の向上」という大きな2つの柱があります。
銀行というと、店舗に行けば待ち時間が長く、あまり融通が利かないイメージをお持ちの方は少なくないと思います。銀行の制約やルールをお客様に押しつけるのではなく、お客様の顧客体験(CX)起点につくり変えないと、アップル社や他デジタルネイティブ企業と競争していくのは難しいのではないでしょうか。お客様視点の新しい体験やサービスを積極的に展開していく銀行サービスを構築していく必要があると考えています。これが「新たな体験・サービスの提供」です。
次に、顧客体験向上に人やお金などの資源を投入していくには、社内の業務プロセスを変え、コストを削減していく必要がありますが、プロセスをマイナーチェンジしただけでは実現できません。新しい技術を前提にしたフルモデルチェンジ、プロセス改革が必要と考えています。
出張 DXを推進していく前提条件として、マインドセット(無意識の思考・行動パターン)の変革もとても重要なのではないでしょうか?
田﨑 「肥後銀行DX計画」の「DXに向けた環境整備」内に5つのマインドセットを定めています。最も重要な「お客さま起点」を中心に据え、「データドリブン」「オープンイノベーション」「挑戦する風土」「アジリティ」の4つを周囲に配置しています。
競争優位はより良い顧客体験を実現することで生まれ(お客様起点)、それを実現するには、お客様の声を勘や感覚ではなく事実・データにもとづいて判断することが大切です(データドリブン)。また、銀行だけでできることは限られており、他業種や地域のお客様と臨機応変に連携して新たな価値を創出(オープンイノベーション)することも大切だと考えています。これらを進めるにあたり挑戦する風土は欠かせず、お客様サービスは銀行起点で決めるのではなく、実際はお客様に試していただきながら少しずつ正解を見つけていくことになるでしょう。小さく素早く動き、失敗・学習して機敏に方向転換する俊敏性(アジリティ)も欠かせません。
出張 先ほど「デジタル先進企業を目指す」というお話がありましたが、具体的にはどのような取り組みを行っていますか?
田﨑 支店では、iPadを使った業務プロセスの自動化を拡充しています。お客様の待ち時間は減少し、行員の処理時間も大幅に削減され、将来の銀行窓口のあり方を体現しているシステムと考えています。お客様が窓口にいらっしゃることなく自分自身で住所変更などの手続きが行えるスマートフォンアプリも現在開発中です。
ほかにも、既存の業務プロセスをゼロベースで洗い出し、改善もしくは廃止という色分けをし、改善のためにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIを導入できないかといった取り組みも始めています。
出張 AIに可能性を感じていますか?
田﨑 はい。銀行は判断業務が多く、その多くの部分を自動化できると考えています。結果として、より生産性の高い業務に行員を配置できるようになります。
出張 平山さんは現在推進しているDXを、人事部としてどのように見ていますか?
平山 私自身、入行当初「紙で残さないといけない」「手書きでないといけない」などの銀行独自のルールに戸惑うことが少なくなかったというのが正直な気持ちです。数年前から新入行員の研修を担当しているのですが、そのなかで「こんなに面倒なんですか!?」と、銀行のルールや事務について新入行員が驚くことがあります。銀行業務において、お客様の資産等をお守りするために、手続き上ペーパーを取り扱わざるを得ない場合もありますが、「こうしたらもっと効率化できる」「こうしたらもっとお客様に便利に使っていただける」という若い人の視点は、DX推進においても重要だと考えます。それにより、さらにお客様の使いやすさや従業員の働きやすさにつながっていけばいいなと感じています。
出張 お二人の話を伺うと、学生の方にぜひ銀行業の魅力を知ってほしいですし、伝えたくなります。熊本県や鹿児島県における九州フィナンシャルグループの存在感はとても大きく、県内にはDXの取り組みが遅れている企業や自治体があるかもしれないと勝手に想像するなかで、肥後銀行さんはDXの取り組みのリーダー、モデルとして、とても重要な役割を果たしているのではないでしょうか。
出張 当社が主催する資格試験「ビジネス統計スペシャリスト」をご採用いただき、感謝申し上げます。お伺いしたきっかけは、肥後銀行さんが「Excel、Wordの利活用に取り組んでいる」という小さな記事を日経新聞で拝見したからなんです。「ビジネス統計スペシャリスト」を採用いただいた背景にも何らかの理由があったのではないかと。採用の経緯を教えていただけないでしょうか?
平山 当行では以前からExcelやWordなど、ITリテラシー基礎スキル向上の取り組みを行っています。そのようななか2020年〜21年ごろ、ビジネス環境の変化に対応するため、従業員1人1人のDXリテラシーを向上していかなければならないという話が行内で出ました。
「ビジネス統計スペシャリスト」は、基礎レベルの「エクセル分析ベーシック」と上級者向け「エクセル分析スペシャリスト」の2種類があり、「エクセル分析ベーシック」は基礎的なデータ分析のスキルをしっかり学べることが決め手となり、導入を決定。採用当初は、行内での本試験の認知度も低く取り組む者も少なかったため、行内サイトに教材を掲載するなどし、この試験に挑戦するとどういう内容を学ぶことができるのか、それを理解するといかに業務に活かすことができるのかということを、行員へ周知してきました。
出張 些細なことで構わないので、もし行内で何か変化の兆しがあれば教えてください。
平山 導入から2年が経過した現時点で約700名の行員が「エクセル分析ベーシック」の資格を取得しました。今までは統計知識に乏しい行員も少なくありませんでしたが、本試験に取り組むことにより、基礎知識を習得した結果、行員間でデータ分析に関する最低限の会話が行えるようになったという話をよく耳にします。いままではよくわらないまま数字を見て、何となくExcelでグラフをつくっていた点もきちんと意味を理解でき、データ分析に使えるようになったと喜んでいます。
基礎スキルから次のステップ、もっと高いレベルに挑戦する土台にもなっています。
田﨑 私も「エクセル分析ベーシック」を取得済みです。社会人であれば避けられないExcelというツールを活用しながらビジネス力が身につき、それでいて気軽にチャレンジできるのがいいですね。BIツールを導入するまでもない身近なデータ分析を行うことにも役立っています。
出張 ありがとうございます。当社は1997年から国際資格「Microsoft Office Specialist(MOS)」を実施しています。「ビジネス統計スペシャリスト」は、MOSのExcel資格を取得後、実際にExcelを使って統計の基礎を学んでほしいという思いでつくりました。私たちが試験をつくった同じ理由で採用いただき、とてもうれしいです。
当社は統計検定などのCBT(Computer Based Testing)試験も実施しており、データサイエンティストと呼ばれる人に必要とされる分野の試験をもっと充実させていきたいと考えています。
出張 最後に、第一線でご活躍されているお二人から、今後のDXの方向性をお聞かせください。
田﨑 個人としての意見になりますが、お客様の顧客体験を第一に考えることに矛盾がない会社になれたらいいなと考えています。いろいろな制約があるけれども、すべての行員がお客様を第一に考えることによって、結果働きやすい会社につながる、私はそういう会社にしていきたいです。DX計画における人材育成という観点では、基本的なデジタルスキル、お客様の顧客体験を起点にした考え方、研修の実施や制度の整備、そして御社が実施しているようなリテラシー引き上げにつながる資格試験への取り組みなどを続けていきたいです。
平山 私も個人の意見になりますが、人事部としてDXをきっかけに行員1人1人をサポートするなかで、いろいろな分野の能力やスキル、知識が向上していくと考えています。DX推進により従業員の声が業務に反映されやすくなったことを肌で感じており、今後私たち行員も少しずつ働きやすくなっていくのではないでしょうか。
出張 この10年、20年で銀行はいろいろな意味で大きく変化し、今後10年、20年でもっと変わっていくでしょう。変化のときに若い人が銀行に入り、新しい波を起こし、ますますデジタルツールが使われるようになるのではないでしょうか。
今回「顧客体験」という言葉が何度も登場しました。平山さんのお話からは顧客満足のみならず、エンプロイーエクスペリエンス(従業員体験)も非常に重要なテーマの1つになっていることを感じています。
お二人の話を耳にし、私たちのお客様である「個人」、そして「企業」のみなさまの期待に応えられるような資格試験をつくっていかなければならないとあらためて思いました。本日はありがとうございました。