2025.03.18
企業向けITサービスを提供する独立系システムインテグレータ(Sler)のコムチュア株式会社(以降、コムチュア)は、1985年の創業以来、IT成長領域への事業シフトと絶え間ないイノベーションによって、年平均成長率15%の高成長経営を続けています。2027年度500億円、2032年度1,000億円の売上高を目指し、積極的なM&Aや3桁規模の新卒・中途採用により人的資本の強化を実施。さらなる成長のため、競争力を高める経営戦略と人材を連動させる経営基盤の強化を進めています。2024年4月に人事制度を改革し、人材育成方針や能力開発計画などを推進する常務執行役員コーポレート担当役員(人事・総務)中谷 隆太さんに、同社のDX人材育成における資格の活用とその効果を伺いました。
インタビューご協力
常務執行役員 コーポレート担当役員(人事・総務) 中谷 隆太さん
1996年、コムチュアの前身である日本コンピューターテクノロジーへ入社。客先常駐のSE経験を経て、2011年コラボレーション本部長へ、2014年執行役員に就任。以降、2017年上席執行役員クラウドソリューション事業部長、2021年取締役クラウドソリューション事業部長兼コラボレーション本部長に就任。2023年4月より現職に従事し、2024年4月に刷新された人事の制度改革を推進。
(文章中敬称略)
現在の成長領域は、クラウドソリューションとデジタル化、つまりDX(デジタルトランスフォーメーション)です。欧米の大手テック企業のIaaSやSaaSなどを用いてシステム開発を進めていますが、業務改革までを含めたDXをゴールに、幅広いベンダーのサービスから最適解を提案可能であることがコムチュアの強みです。
案件規模によっては外部のコンサルファームと連携し対応することもありますが、2023年には社内にコンサルティング専門の部署を立ち上げ、より提案力の強化を図っております。また、当社の中期経営計画では、DXをコアビジネスにしていくために、何年掛けてどのくらいの比率で売上を増やしていくという部分まで解像度高く描いています。外部に対しても明確にコアビジネスを打ち出し、相当なスピード感をもって取り組んでいる点は、他社にはない当社の特徴です。
また、これまで継続的な高成長を実現することができたのは、時代や技術の変化を的確に捉え、迅速に対応し続けてきた結果だと考えています。IT分野は技術革新に伴い常に新たな挑戦が求められるため、創業時から「全社員が絶え間ないイノベーションに取り組む」という風土・文化は空気のように浸透していますし、事業拡大には会社組織とそこで働く社員、双方の成長が不可欠だと考えています。
当社ではさらなる成長に向けた事業戦略のひとつに「人的リソース拡大」を掲げており、優秀な人材の採用・獲得に力を注いでいます。例えば、2022年度から続く3桁規模の新入社員の採用(※)をはじめ、この3年で100名を超える中途社員の採用やM&Aに伴う100~200名あまりのグループ企業への統合です。2001年以降、多数の人材が入社し、現在約2,000名規模の企業に成長しました。また、人事制度刷新の背景としては、M&Aを通して生じた異文化コミュニケーションによる課題もありましたし、過去20年以上にわたり必要に応じてその時々に見直してきたツギハギ的な人事制度だったため、DXを推進する企業に適していない制度が混在していました。社員の成長にかかわる人事制度が旧態依然のままでは、会社に対するエンゲージメント低下につながる可能性があります。人的資本経営を進めるうえで人事制度改革は最重要課題であり、1年半かけて準備を進め、2024年4月から新しい人事制度を始動させました。
今回の刷新でフォーカスしたのは「等級」「報酬」「評価」の3つです。給与体系は8つの等級に応じて規定し、各等級の基準も明示しました。報酬は過去3年で約30%引き上げており、今年も5%上げています。評価については、基本的には目標設定管理型とし、個々の上長の主観による差を生じさせず、一定の評点が算出される仕組みに変更しました。さらに、管理者向けにはこれまでのマネジメントコースに加え、エンジニアとして専門性を高め続けていくキャリアパスを示すスペシャリストコースも新たに設置。新制度における各種人事施策を適切に進めるため、組織体制も新たにし、企画・採用・労務・人材開発という体系に分け、業務内容も一新しました。
また、今回の新体制では社歴を問わず、すべての本部長や部長クラスに改めて管理職研修を受講してもらうなど、かつてないドラステックな改革を行いました。研修はこれまでも事業部ごとに取り組んでいましたが、会社が旗を振り、横断的に取り組まないと全体の変化は起きないと考え、断行しました。
※新入社員の入社人数:2025年/196名、2024年/196名、2023年/213名、2022年/121名
対象者 | 研修 |
---|---|
入社1年目~3年目 | 年次研修(年1回開催) |
リーダー以上 | 役割・期待に応じた階層別研修 |
若手・中堅社員 | ビジネススキル研修 共通技術研修(IT関連) |
全社員 | 課題別研修 |
所属部門単位 | 部門別研修 |
2023年と2024年に行った全社員へのエンゲージメントサーベイでは、研修制度に対する社員からのスコアがかなり上がっていたので、一定の評価を得ているのではないかと感じています。とはいえ、明確な結果が出るのはまだこれからでしょうね。
体系や基準などの設計は緻密に行いましたが、血の通った制度として機能させるため、今回の人事制度で圧倒的に強化したのが「上長と部下とのコミュニケーションの場づくり」です。組織力を高めていくうえでは社員一人ひとりの成長を支援することが重要ですが、これは絶対的に対面、すなわち1on1でやらない限りは成立しないと考えています。上長面談は半期に一度は必ず実施する仕組みにしており、なかには毎月1on1を行う組織もありますので、コミュニケーション機会は確実に増えています。
また、今回は等級から報酬まで一新したことに伴い、新たな人事制度において、社員に求めるレベルに到達してもらうための研修制度もかなり充実させました。右記に挙げた集合型研修に加え、オンライン学習できるeラーニング(常時12,000件以上のコンテンツ)も導入。当社は自己啓発も奨励しているので、エンジニアとしての専門知識だけでなく、ビジネスパーソンとして必要となる総合的なスキル習得のため、多くの社員が活用しています。
当社代表の澤田千尋は、「人事制度は2年、3年と運用していくなかでブラッシュアップしていくものであり、最低でも10年はかかる」との考えであり、今後もより会社と社員が成長していくために、社内から寄せられた要望や人事委員会による人事制度評価の意見を参考にしながら、絶え間なく改善していきます。
当社では創業当時から、進歩する技術を身につける手段として資格取得を推奨しています。会社に宿るDNAと言ってもいいでしょう。
取得する資格は、事業計画や各部署の方針に基づき会社から推奨することが多いですが、それとは別に「この分野のレベルアップを図りたい」と自発的に挑戦するケースもあります。上長承認のうえ目標設定した資格については、合格すれば奨励金を支給する制度もあります。金額については資格の難易度や取得への注力度をもとに設定しており、対象資格は、社内全体から意見を募り、現時点では計700資格にものぼります。
現在、のべ約4,000名が大手グローバル企業のIT系の資格を取得済み(2024年7月時点)で、「Microsoft認定資格」は新入社員や若手エンジニアを中心にのべ1,000名以上、「Pythonエンジニア認定試験」および「統計検定」はそれぞれのべ約150名が取得しています。
資格は製品ごとにレベルが体系化され、そのための学習教材や規定の評価点に応じた認証基準もあるため、学習して合格することで一定のクオリティが担保される客観的かつ有用な手法だと思います。お客様に提案する際も「上級資格を取得している」という事実は非常に伝わりやすく、資格は経験に代替えできるものとも考えています。当社において、資格はいわば運転免許証のようなものであり、特定の資格がなければ遂行できない業務もあるため、信頼を得るうえで重要な役割を果たします。今回の人事制度では、取得資格も体系立てて一部連携させていますが、それが各部門のキャリアパスにもつながり、より上を目指す場合は役割に応じた資格を取得する必要があります。
我々はお客様のビジネスの最適化を提案する独立系のSIer企業として、個々の能力を継続的に高めていく必要があります。一人ひとりの社員が成長を実感できる組織をつくりあげ、さらなる企業価値の向上を目指していきます。
(インタビュー:2025年1月)